一者応札とは?意味・問題点・政府の改善策をわかりやすく解説

一者応札とは 意味・問題点・改善策(サムネイル) 入札の基礎

一者応札とは、一般競争入札において応札者が1者のみとなり、実質的な競争が成立しない状態のことです。

公共調達は税金を原資とする以上、複数の業者が競い合い、適正な価格・品質が確保されることが大前提です。しかし実際の入札現場では、さまざまな事情から「たった1社しか応札しなかった」というケースが後を絶ちません。

この記事では、入札・調達の実務担当者に向けて、一者応札の定義から発生要因、政府が打ち出してきた具体的な改善策まで、制度の全体像をわかりやすく解説します。「なぜ問題視されるのか」「自社の入札機会とどう関係するのか」を理解することで、受注戦略の見直しにも役立てていただけます。


一者応札とはどういう状態か

一者応札とは、一般競争入札において入札参加者が1者のみとなる状態を指します(農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)の調達適正化ページでも同様に定義されています)。

似たような言葉に「一者応募」があります。これは企画競争(プロポーザル方式)において提案書を提出したのが1者のみだった場合に使われる表現で、入札(価格競争)の一者応札と対になる概念です。

入札・応札・落札の関係を整理する

入札・応札・落札の用語の意味を整理した一覧表

まず言葉の整理から始めましょう。

用語意味
入札発注機関が契約相手を競争で決める手続き全般
応札入札参加者が価格を提示すること
落札応札の結果、契約相手として決定されること

一者応札では「応札した」のが1社だけなので、その1社が自動的に落札します。価格の妥当性を競争によって担保するしくみが機能しないため、問題視されるわけです。

入札・応札・落札の用語の違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています。


会計法上の原則と一者応札の関係

そもそも国の契約はどうあるべきか。会計法第二十九条の三は、国の契約は原則として一般競争入札によるべきと定めています衆議院の質問主意書でも言及)。

一般競争入札は、不特定多数の業者が参加できる最も開放的な調達方式です。入札の種類や競争方式の違いについてはこちらの記事もご参考ください。

一般競争入札が原則とされている理由は次の3点に集約されます。

  1. 透明性の確保:参加者・落札者・落札価格を公開することで、恣意的な契約を防ぐ
  2. 競争による価格適正化:複数者が競うことで税金の無駄遣いを防ぐ
  3. 公平な機会の提供:参加資格を満たす業者であれば誰でも参加できる

一者応札はこのうち「競争による価格適正化」が機能しない状態であり、「手続きとしては入札だが、実質は随意契約と変わらない」 と批判されるケースがあります。


一者応札が問題視される理由

一者応札が発生しても、手続き上は適法です。1者しか応札がなかったとしても、その価格が予定価格の範囲内であれば契約は成立します。では、なぜ問題とされるのでしょうか。

競争性が形式的にしか確保されていない

NAROの調達適正化ページでも、一者応札は十分な競争性が確保されていないおそれがあるとして、改善に取り組む姿勢が示されています。

複数の業者が競えば、各社は価格を下げたり提案の質を高めたりするインセンティブが働きます。しかし1者しかいなければ、その業者は「自分が一番低くある必要がない」状態になります。結果として、本来なら下がるはずの価格が下がらず、コスト削減機会が失われます。

税金の使い方として説明責任を果たしにくい

公共調達は国民・住民の税金を原資としています。「なぜ1社しか応札がなかったのか」「本当に適正な価格だったのか」という疑問に対して、発注機関は合理的な説明を求められます。特に会計検査院や議会のチェックにおいて、一者応札が多い機関は調達の適正化を強く求められます。

新規参入の阻害につながりうる

一者応札が常態化している案件は、「事実上、特定の1社だけが参加している案件」である可能性があります。参加要件が過剰に厳しかったり、公告期間が短すぎたりすることで、新規参入の意欲がある業者が排除されているケースも指摘されています。


一者応札が発生する主な要因

一者応札が発生する4つの要因(参加要件・公告期間・仕様書・情報周知)を整理したカード図

なぜ1社しか応札しないのか。要因はさまざまですが、大きく次の3つに分類できます。

① 参加要件が過剰に厳しい

業務実績の要求水準、技術者の資格・経験年数、過去の実績機関の限定など、要件が厳しすぎると参加できる業者が極端に絞られます。たとえば「過去3年以内に同規模の業務実績があること」という条件は、実績のない中小企業には高いハードルです。

② 公告期間が短すぎる

入札に参加するには、公告を確認して参加申請の準備をする時間が必要です。文部科学省が取りまとめた調査では、平成20年度上半期の調達における一者応札・応募244件のうち、公告等の期間が20日未満のものが211件(86.5%)を占めていました(出典:文部科学省関係PDF)。公告期間の短さと一者応札には、強い相関関係があることがわかります。

※上記244件は文部科学省関係機関の調達データです。政府全体の集計とは異なりますのでご注意ください。

③ 仕様書の内容が特定の業者に有利になっている

仕様書や要求仕様が、過去の受注業者が提供しているサービスや製品に合わせて書かれていると、事実上その1社しか対応できない状態になります。これは意図的でない場合も多いですが、結果として競争性を損なっています。

④ 情報周知の不足

入札情報が十分に周知されていないと、参加したくても気づかない業者が出てきます。入札情報の探し方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。


政府・各機関の改善策:何が変わったのか

一者応札の問題は、2008年(平成20年)12月の行政支出総点検会議で正面から取り上げられました。この会議で「各府省は一者応札・応募となった契約を精査した上で、応札者を増やし実質的な競争性を確保するための改善方策を検討・公表すべき」との指摘がなされました(衆議院質問主意書)。

これを受けて平成21年(2009年)3月に、国土交通省をはじめ各府省が相次いで改善方策を公表しました。

国土交通省の改善方策(平成21年3月)

国土交通省が平成21年3月に公表した一者応札改善方策の5つの柱を示す一覧表

国土交通省が発表した「1者応札・1者応募に係る改善方策」では、以下の取り組みが明示されています。

改善の柱具体的な内容
応募要件の緩和業務実績要件の水準を見直し、過剰に高い参加ハードルを下げる
契約条件の見直し仕様書・要求要件を特定業者有利にならないよう点検
準備期間の確保公告から締切までの期間を十分に設け、新規参入者が準備できる時間を確保
情報提供の拡充業務内容・仕様書を広く周知し、潜在的な参加者へのリーチを高める
総合評価落札方式の試行拡大価格だけでなく技術提案も評価する方式を広げ、多様な業者が参加しやすくする

企画競争(プロポーザル)における改善

企画競争では、業務実績の対象機関を拡大するとともに、技術者の業務経験の評価期間を「過去5年」から「過去10年」に延長する改善が行われました(国土交通省・同出典)。経験年数の幅を広げることで、長いキャリアを持つ技術者を擁する中小企業も参加しやすくなります。

財務省・各省庁の対応

財務省がまとめた改善方策では、一者応札となった契約に対して会計監査や入札等監視委員会(第三者委員会)による要因の個別把握・分析を実施し、原因に応じた改善を図る仕組みが示されています。発注機関が自発的に一者応札の原因を分析・公表することで、透明性を高めるアプローチです。


中小企業の入札担当者が知っておくべきポイント

中小企業の入札担当者が一者応札案件を活かすための3ステップ図

一者応札は「発注機関側の問題」だけでなく、入札に挑戦する中小企業にとっても重要な示唆を含んでいます。

一者応札案件を見つけたときの考え方

過去の落札情報を調べると、特定の案件に毎回同じ1社が落札しているケースがあります。これは「参入障壁が高い」可能性と同時に、「参加者が少ないため落札確率が高い」可能性の両面があります。

参加要件を満たせる場合は、積極的に挑戦する価値があります。特に参加要件の緩和が進んでいる案件は、新規参入のチャンスです。

公告期間に注意する

改善策として「公告期間の確保」が掲げられているように、期間が短い案件は競争が少ない傾向があります。逆に言えば、短い期間でも素早く情報をキャッチして応札できる体制を整えることが、競争優位につながります

要件緩和の動向を継続的にウォッチする

業務実績要件や技術者要件は、改善策により緩和されてきた経緯があります。「以前は要件を満たせなかった案件」でも、今は参加できる可能性があります。定期的に案件情報をチェックし、自社の資格・実績と照らし合わせる習慣が重要です。


よくある質問(FAQ)

一者応札は違法なのですか?

一者応札は違法ではありません。応札者が1者のみであっても、入札の手続き(公告・参加申請・価格提示)を経ている以上、契約自体は有効です。ただし「実質的な競争性が確保されていない」と判断される場合、会計検査院の指摘対象や入札等監視委員会の審査対象になることがあります。

一者応札になった場合、その入札はやり直しになりますか?

必ずしもやり直しにはなりません。予定価格の範囲内であれば、1者の応札でも契約を締結できます。ただし発注機関によっては、一者応札の場合に入札を取りやめ(不調)として公告し直すケースや、条件を見直して再入札を行うケースもあります。具体的な取り扱いは発注機関のルールによります。

一者応札と随意契約は何が違いますか?

随意契約は競争手続きを経ずに特定の業者と契約する方式です。一者応札は一般競争入札の手続きを踏んでいる点で異なります。しかし「競争が事実上機能していない」という点で類似した状態となるため、「形式的には競争入札だが実質的には随意契約と変わらない」と批判されることがあります。

中小企業が一者応札案件に参加するメリットはありますか?

参加者が少ない分、落札確率が相対的に高くなる可能性があります。参加要件を満たせる場合は積極的に検討する価値があります。ただし予定価格が低く設定されている案件では採算に注意が必要です。事前に類似案件の落札価格をリサーチして、価格設定の参考にしましょう。

一者応札の改善は現在も続いていますか?

平成21年(2009年)の改善方策公表以降も、各府省・機関が個別に取り組みを継続しています。入札等監視委員会による定期審査や会計検査院の指摘を通じて、一者応札の多い案件については要因分析と改善が継続して求められています。


まとめ

一者応札とは、一般競争入札において応札者が1者のみとなり、実質的な競争が成立しない状態です。手続きとしては適法ですが、競争性の欠如という観点から長年問題視されてきました。

主な発生要因は「過剰な参加要件」「短すぎる公告期間」「仕様書の偏り」「情報周知の不足」の4つです。政府は平成21年以降、要件緩和・公告期間の確保・情報提供の拡充・第三者による監視強化といった改善策を講じてきました。

中小企業の担当者にとっては、一者応札案件は「参入のチャンス」でもあります。要件緩和の動向を把握し、入札情報を素早くキャッチすることが、受注機会の拡大につながります。


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