公共調達に初めて参加する担当者にとって、「予定価格」は最初につまずきやすい用語のひとつです。この記事では、予定価格の定義から法的根拠、設定のしくみ、最低制限価格との違いまで、実務で必要な知識を体系的に解説します。入札の基本を理解することで、応札戦略の精度も上がります。

予定価格とは何か?定義と基本的な役割
予定価格とは、発注者(官公庁など)が調達案件ごとに事前に設定する「支払ってもよい最高金額(上限額)」のことです。
入札において、この上限額を超える価格で応札した場合は原則として失格となります。言い換えれば、入札参加者が提示できる価格の「天井」として機能します。
公共調達では、工事費や物品購入費・業務委託費などはすべて税金から支出されます。そのため、予定価格を設けることで、適正な価格の範囲内でできるだけ競争原理を働かせ、財政を効率的に使うことが目的のひとつです。
予定価格が果たす主な役割を整理すると、以下の3点になります。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 予算統制 | 税金の支出を一定の上限以内に抑える |
| 公平性・透明性の確保 | 評価基準が明確になり、恣意的な契約を防ぐ |
| 適正な競争の確保 | 現実的な価格帯での競争を促し、市場価格から大きく乖離した契約を防ぐ |
この制度の根拠は、会計法・地方自治法などの関係法令にあります。国土交通省の審議会資料でも、「予算の統制や契約の公平性・透明性、適正な競争の確保の観点から設けられている」と明記されています(出典:国土交通省)。
予定価格の法的根拠

予定価格の設定は、単なる慣習ではなく法律に基づく義務です。主な根拠法令は次のとおりです。
- 予算決算及び会計令(予決令)第79条・第80条:国の機関は契約ごとに予定価格を作成・決定します(会計法第29条の6は「予定価格の制限の範囲内で落札者を決める」上限拘束の規定で、作成義務の条文ではありません)。
- 地方公共団体では、予定価格の制限の範囲内で落札者を決定します(地方自治法施行令第167条の8)。予定価格の作成自体は各団体の財務規則等に基づきます(第167条の10は最低制限価格・低入札価格調査の規定)。
これらの規定により、国・地方を問わず、公共調達では原則として予定価格の設定が必須となっています。民間企業が応札する際には、この「法令上の上限」を意識した価格設定が不可欠です。
なお、入札の基本的なしくみについては別記事で詳しく解説していますので、制度全体を理解したい方はあわせてご参照ください。
予定価格はどのように設定されるか

予定価格は、発注者が積算(コスト計算)によって算出します。設定方法は調達種別によって異なりますが、共通する考え方として「その案件の完成・履行に必要な適正なコストを算定する」という原則があります。
公共工事の場合
建設工事では、国土交通省や自治体が定める「積算基準」「歩掛(ぶかかり)」「市場単価」などを用いて工事費を積み上げる方法が一般的です。材料費・労務費・機械経費・諸経費などを積み上げ、合計額を予定価格とします。
物品・業務委託の場合
物品調達や業務委託では、市場価格の調査や、複数企業から参考見積書を徴取して平均値を算出する方法がよく使われます。ただし、複数見積の単純平均を機械的に予定価格とすることは、見積間の価格差が大きい場合には不適切とされ、総務省の行政評価でも改善が求められています(出典:総務省)。
設定のポイント
- 市場価格や実勢価格から大きく乖離しないこと
- 品質確保に必要な適正な水準を下回らないこと
- 毎年度の予算額と整合していること
予定価格の積算が不適切(過度に低い)な場合、応札者がゼロになる「不調」や、落札後の品質低下・契約不履行につながるリスクがあります。
予定価格の事前公表制度
予定価格は、入札実施前に「公表するか・しないか」によって2つの運用形態があります。
事前公表と事後公表の違い
| 区分 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 事前公表 | 入札前に予定価格(または上限額)を公告・公示 | 参加者が価格を設定しやすい、不調になりにくい | 予定価格に張り付いた入札になりやすく競争が機能しにくい |
| 事後公表 | 開札後に予定価格を公表 | 価格競争が促進される | 参加者の価格設定が難しく、失格リスクが高まる |
国や多くの自治体では、透明性向上の観点から事後公表が基本ですが、物品や業務委託などの案件では事前公表を採用している機関も存在します。自治体ごとに方針が異なるため、公告文や調達要領で確認することが重要です。
事前公表の場合、入札参加者は「予定価格よりも低く、かつ最低制限価格以上」の範囲で価格を提示することになります。
予定価格と最低制限価格の違い

「予定価格」と「最低制限価格」は混同しやすい用語ですが、機能がまったく異なります。
| 項目 | 予定価格 | 最低制限価格 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 発注者が支払える上限額 | 受注させてよい下限額 |
| 超えた場合 | 上回ると失格 | 下回ると失格 |
| 目的 | 財政の適正な使用・予算統制 | 著しく低い価格による品質低下・ダンピング防止 |
| 設定の必須性 | 原則すべての競争入札で設定 | 設定しない発注機関・案件もある(主に工事) |
つまり、落札価格は「最低制限価格以上、かつ予定価格以下」の範囲に収まる必要があります。この2つの数値が入札価格の「許容帯」を形成しています。
なお、最低制限価格と似た制度として「低入札価格調査制度」があります。こちらは下限を下回ると即失格ではなく、履行可能性を調査したうえで判断する制度です。主に国や大規模自治体の工事で採用されています。
落札率と予定価格の関係
落札率とは、予定価格に対する落札価格の割合(落札価格 ÷ 予定価格 × 100)のことです。
落札率が高い(予定価格に近い)と発注者のコスト負担が大きく、低いと価格競争が機能していることを示しますが、一方でダンピングのリスクも高まります。公共工事では長年、「談合などにより落札率が異常に高い」問題が指摘されてきました。制度改革を経て競争が促進されましたが、適正な落札率の水準は工事の種類や難易度によって異なります。
応札側としては、予定価格の水準を読む「積算力」が落札に直結します。落札についての詳細は別記事で解説しているので、落札のしくみを深く理解したい方はご参照ください。
よくある質問(FAQ)
予定価格は必ず非公開なのですか?
いいえ、必ずしも非公開ではありません。発注機関によっては、入札前に予定価格(または予定価格の上限)を公表する「事前公表制度」を採用しています。特に物品・業務委託系の案件では事前公表のケースも多く、公告文や入札説明書に「予定価格:○○円」と明示されている場合があります。事前公表か事後公表かは、各機関の調達方針や案件ごとに異なるため、公告を確認してください。
予定価格を1円でも超えると必ず失格ですか?
はい、予定価格を上回る価格での入札は原則として失格(無効)となります。これは会計法・地方自治法等に基づくルールであり、例外はありません。特に事後公表の場合は予定価格が不明なまま入札するため、積算を丁寧に行い、適正な価格を見積もることが重要です。
予定価格の積算に使われる基準はどこで確認できますか?
公共工事の場合、国土交通省が公表している「公共建築工事積算基準」や「土木工事積算基準」などが参考になります。また、各都道府県・政令指定都市も独自の積算基準や単価表を公表しています。物品・業務委託の場合は、官報や調達ポータルに掲載される仕様書・設計書の内容から積算根拠を読み取ることが基本です。
最低制限価格はすべての入札案件に設定されていますか?
いいえ、すべての案件に設定されているわけではありません。最低制限価格が設定されることが多いのは主に建設工事で、物品調達や業務委託では設定しない機関・案件も多くあります。また、工事でも低入札価格調査制度を採用しているため最低制限価格を設けないケースもあります。案件ごとに公告・入札説明書で確認することが確実です。
予定価格はどのタイミングで公表されますか?
事後公表の場合は開札(入札が終わった後)に公表されます。入札結果として落札価格・落札者とあわせて予定価格も公開されることが多く、各機関の調達情報ページや入札結果一覧で確認できます。事前公表の場合は入札公告・入札説明書に記載されています。
まとめ
予定価格とは、発注者が税金の適正な使途を確保するために設定する「調達の上限額」です。この金額を超えた応札は失格となるため、入札参加者にとっては積算精度の高さが直接、落札の可否に影響します。
あわせて理解しておきたいのが最低制限価格との関係です。落札価格は「最低制限価格以上、予定価格以下」の帯に入る必要があり、この範囲を意識した価格戦略が求められます。
入札の基本を押さえたら、次のステップは案件の探し方です。予定価格の水準を把握するには、過去の落札情報(落札価格・落札率)を継続的に調べることが有効ですが、国や自治体など複数の機関の情報を個別に巡回するのは大きな手間がかかります。
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